【資料解説】環境省作成「サステナビリティ(気候・自然関連)情報開⽰を活⽤した経営戦略⽴案のススメ」 − 別添 インターナルカーボンプライシング活用ガイド:実践編

前回は「サステナビリティ(気候・自然関連)情報開⽰を活⽤した経営戦略⽴案のススメ」の別添 「インターナルカーボンプライシング活用ガイド:実践編」から、「2-1. インターナルカーボンプライシングの定義」と「2-2. インターナルカーボンプライシング 理論編」について、こちらの記事で紹介しました。

環境省の「2-3. インターナルカーボンプライシング 実践編」では、インターナルカーボンプライシング(ICP)の具体的な導入プロセスと実践的な留意点について解説されています。本記事では、この章の内容を踏まえ、企業がICPを効果的に導入・運用するためのポイントを詳しく見ていきます。

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ICPの導入目的の検討

ICPを導入する際には、まず自社の目的を明確にすることが重要です。ガイドラインでは、ICP導入の目的を「取り組みの要因(内的・外的要因)」と「投資行動の緊急度」の2軸で整理しています。

内的要因としては、脱炭素目標の達成や社内の意識醸成など、外的要因としては、脱炭素規制への対応や情報開示の推進などが挙げられます。また、投資行動の緊急度が高い場合は、具体的な脱炭素投資の推進が目的となる一方、緊急度が低い場合は、将来の規制リスクへの準備などが目的となります。

企業は、自社の排出状況や経営戦略を踏まえ、ICP導入の目的を明確化することが求められます。

ICP価格の検討

ICP価格の検討は、以下の4つのステップで進めます。

  1. ICP算定対象の選択:過去・将来の脱炭素関連投資、CO2排出量が多い設備・製品など
  2. ICP価格の算定:投資によるCO2削減量と投資額から、ICP価格を算定
  3. 算定結果のプロット:外部価格や同業他社価格と合わせ、グラフにプロット
  4. 候補となるICP価格の設定:プロット結果を基に、幅広い価格帯からICP価格の候補を設定

算定したICP価格については、「参照価格の出所や対象年度」「導入の容易さ」「脱炭素目標達成への貢献度」などの観点から、価格の意味合いを整理します。その上で、ICP導入の目的や社内の理解度を踏まえ、最適な価格を選択します。

意思決定プロセスの検討

ICPを導入する際には、既存の意思決定プロセスをどのように変更・適用するかを検討する必要があります。ガイドラインでは、以下の2ステップでの検討を推奨しています。

  1. 現状の投資の意思決定プロセスの整理:担当部署・役割・投資の判断基準を整理
  2. ICP導入後の投資の意思決定プロセスの検討:追加・変更が必要な役割・プロセス・ルールを明確化

社内の合意形成を円滑に進めるためには、できる限り既存のプロセスを活用しつつ、ICP導入による変更点を最小限に留めることが重要です。また、経理部門や事業部門など、関連部署の巻き込みを早い段階から図ることも欠かせません。

社内体制の検討

ICPの導入・運用に向けては、全社的な体制の構築が不可欠です。単なる価格設定の問題ではなく、企業の意思決定プロセスや予算管理の仕組みを変革する取り組みであるため、トップダウンとボトムアップのバランスを取りながら、関連部署の巻き込みを図っていく必要があります。

ICPの導入・運用の主体となるのは、サステナビリティ推進部門や環境部門などが想定されます。これらの部署が中心となり、以下のような役割を担います。

  1. ICP導入に必要な項目の整理(適用範囲、推進の時間軸、運用体制など)
  2. 関連部署との調整・連携
  3. 経営層への説明・巻き込み
  4. 環境ビジョンの策定

特に、経理部門や事業部門など、実際の意思決定やオペレーションに関わる部署との連携が重要となります。これらの部署の理解と協力を得ながら、ICPの導入・運用に向けた実務的な検討を進めていく必要があります。

ICP導入の体制構築において、特に留意すべきポイントは以下の3点です。

  1. 既存の体制・プロセスの活用: ICPの導入・運用に当たっては、できる限り既存の体制やプロセスを活用し、関係者の負担を最小限に抑えることが重要です。例えば、投資判断のプロセスに、CO2削減効果の算定を組み込むことで、スムーズな導入が可能となります。
  2. 実効性のあるPDCAサイクルの構築: ICPの効果を継続的に高めていくためには、Plan-Do-Check-Actのサイクルを回していくことが欠かせません。投資実績やCO2削減効果を定期的にモニタリングし、価格設定や予算配分の見直しにつなげる仕組みを整備することが求められます。
  3. 社内の意識改革・教育: ICPは単なる数字の問題ではなく、脱炭素経営の重要性を社内に浸透させるためのツールでもあります。経営層から現場の社員まで、一人一人の意識改革を促すための教育・研修なども併せて実施することが効果的です。

ICP適用範囲・適用企業範囲の検討

ICPの適用範囲は、自社のバリューチェーン全体を視野に入れて検討する必要があります。具体的には、以下の4つの観点から検討を進めます。

  1. 対象事業:全事業を対象とするか、一部の事業に絞るか
  2. 対象企業:本社のみとするか、グループ会社・子会社も含めるか
  3. 対象地域:海外も含めるか、国内のみとするか
  4. 基準の統一性:事業や企業をまたいで、ICP価格や投資基準を統一するか

一般的には、Scope1・2の排出量が多い事業や、データの把握が容易な国内事業から適用を始め、徐々に対象を拡大していくのが現実的でしょう。また、グループ全体での脱炭素を進めるためには、ICP価格や投資基準の統一も重要な課題となります。

適用範囲の検討に当たっては、各事業の特性や、データ収集の容易性なども考慮しつつ、バランスを取ることが求められます。

CO2削減目標と投資の連動性の検討

ICPの効果を最大化するためには、CO2削減目標と脱炭素関連投資を連動させることが重要です。具体的には、以下の2つのステップで検討を進めます。

  1. 脱炭素目標達成に向けた必要投資額の概算
  2. 現状の脱炭素関連予算とのギャップの把握

必要投資額の概算に当たっては、「(目標年までの成り行きCO2総排出量)-(目標に沿ったCO2総排出量)」で削減必要量を求め、「削減必要量×ICP価格÷年数」で年間の必要投資額を算出します。

現状の予算とのギャップを定量的に把握することで、経営層への説明材料とするとともに、ICP価格の見直しや予算増額の交渉にもつなげることができます。

ICPに関する予算管理・予算上限の検討

ICPを企業の投資判断に組み込んでいくためには、適切な予算管理の仕組みが不可欠です。特に重要なのは、以下の3点です。

  1. ICP予算の出資者・編成方法・管理方法の検討
  2. ICP予算管理におけるPDCAサイクルの検討
  3. 予算上限の設定の要否の検討

ICP予算の管理方法としては、通常の予算の中で管理する方法と、別枠で管理する方法が考えられます。別枠で管理する場合は、予算の出資者(コーポレート部門 or 事業部門)や、予算の編成方法(トップダウン or ボトムアップ)なども検討が必要です。

また、予算管理のPDCAを適切に回していくためには、「ICP価格算定シート」や「CO2削減量算定シート」など、必要なツールを整備することも重要です。これらのツールを活用し、投資実績やCO2削減効果を定期的にモニタリングしながら、予算配分や価格設定の見直しにつなげていくことが求められます。

まとめ

本記事では、環境省の「インターナルカーボンプライシング活用ガイド」の「2-3. インターナルカーボンプライシング 実践編」の内容を踏まえ、企業がICPを効果的に導入・運用するための実践的なポイントを解説してきました。

ICPの導入は、単なる価格設定の問題ではなく、企業の意思決定プロセスや予算管理の仕組みを変革する全社的な取り組みです。ICP導入の目的を明確化し、自社の状況に合わせた価格設定、適用範囲の検討、体制の構築を進めていくことが求められます。

また、CO2削減目標と投資を連動させ、予算管理のPDCAを適切に回していくことも重要なポイントです。ICPを企業経営の本流に組み込んでいくためには、トライ&エラーを恐れず、粘り強く取り組みを続けていく必要があります。

日本企業の多くは、まだICPの導入に向けた試行錯誤の途上にあると言えます。しかし、脱炭素社会への移行が加速する中で、ICPに対する関心は急速に高まっています。本ガイドラインで提示された実践的な手法を参考に、より多くの企業がICPを経営の武器として活用し、脱炭素経営のリーダーとして躍進することを期待したいと思います。

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