温室効果ガス (GHG) の算定と報告に関する国際的な基準を策定しているGHGプロトコルは、2022年11月から2023年3月にかけて、コーポレート・スタンダード、スコープ2ガイダンス、スコープ3基準、マーケットベース・アカウンティング・アプローチに関する4つのサーベイを実施し、企業や関係組織からフィードバックを募集しました。2023年12月にはコーポレート・スタンダード・サーベイ・サマリーのドラフト版を公開し、サーベイ回答者からの意見を求める期間を設けた後、このたび最終版のサマリーレポートを公開するに至りました。
コーポレート・スタンダード・サーベイでは、375件の回答が寄せられ、排出量の算定や報告における課題、基準の改善点などについて幅広く意見が集まりました。サマリーレポートによると、回答者の多くは現行のコーポレート・スタンダードに概ね満足しつつも、一部の改訂が必要との認識を示したようです。特に、組織境界の設定方法、スコープ3排出量の算定義務化、基準年の調整ルール、第三者検証の要否といった論点について、様々な意見が寄せられました。
組織境界に関しては、財務会計との整合性を重視する意見が多く、また経営支配力アプローチ(Operational Control Approach)の定義を明確化すべきとの指摘もありました。スコープ3については、開示を義務化すべきとの意見が多数を占めた一方、対象範囲や算定手法を絞り込むべきとの意見も少なくありませんでした。基準年調整については、マテリアリティ基準の明確化を求める声が多く聞かれました。さらに、第三者検証の義務化を支持する意見もある程度見られた一方、中小企業等への負担を懸念する声もありました。
また、コーポレート・スタンダードに関連して40件以上の個別提案も提出されています。プロポーザル・サマリーによると、企業間の比較可能性の向上や、財務会計とのさらなる整合性、スコープ3の義務化、バイオマス燃焼の扱い、GWP20年値の併記など、サーベイで寄せられた意見と重なる提案が多く見受けられました。
GHGプロトコルは今後、これらのフィードバックを踏まえ、2024年半ばに予定されているTechnical Working Groupで具体的な基準改訂の検討を進めていく計画です。コーポレート・スタンダードを含むGHGプロトコルの基準類は、各国の排出量取引制度や企業の温暖化対策の基礎を成すものであり、今回の改訂作業の行方は、グローバルなGHG排出量の算定方法や企業行動に大きな影響を及ぼすことになりそうです。気候変動リスクへの関心が高まる中、企業のサステナビリティ担当者のみならず、投資家や政策立案者など幅広いステークホルダーが注目を集めていくことになるでしょう。